あの人に聞く!日本を創り継ぐとは vol.1(前編)

「あの人に聞く!日本を創り継ぐとは」と題して、熱き社会人の皆様にインタビューさせていただきます。

記念すべき第1回は、日本を創り継ぐプロジェクトの初代共同代表であり、立ち上げから携わっていらっしゃる櫻井亮さんにお話を伺いました。

今回から2回に渡り、その模様をお届けします。

f:id:tsukutsugu:20150212071532j:plain

 

-こんにちは。本日はよろしく御願い致します。

 

  こちらこそよろしく御願いします。

 

-“若者の心に火をつける”ということで様々な活動をなさっている櫻井さんですが、櫻井さんは学生の頃、どのような学生生活を送っていたのでしょうか?

 

 ずっとバイトを通して仕事をしていた気がします。最初は小さな天ぷら屋さんでバイトをしました。店主は初老で、いつも手を震わせる感じで「大丈夫?」という姿で仕事をしていたんだけど、てんぷらを揚げるときだけピタッと手が止まり洗練された形で動きに魅せられるんです。今思うと、“プロフェッショナル”の最初の入り口を知ったのは、その天ぷら屋さんが大きかったかなと思います。その後はカフェやレストランでウェイター、家庭教師などの仕事をしていました。全部ではないけど共通しているのは、オープニングスタッフであるということ。新しいことを一から作っていくことに対して、振り返るとやっぱりゼロイチ(ゼロから何かを始めること)が好きでそれを意識的に選んでいたんですよね。

 

 学生の頃のバイトの経験は今でも生きています。たとえば、お店の良し悪しを判断するときに、ルックアップ(目線を上げて顧客の様子を伺うこと)がどのくらい早いかを無意識にチェックしています。サービス料が高くていわゆる「いいお店」でも(店員が)ずっと下を向いていて、お客さんのほうを全然見ていないお店はいまいちだなぁと思うし、料金も庶民的で料理も特別美味しいわけでなくとも、ルックアップがすごく多くて顧客の要望にすぐ気がつくお店はいいお店だと思います。サービスレベルが高いお店というのは、とにかくお客さんが今何をしているか、何を欲しているのかを見ています。私自身が日常の生活の中でその辺りの目線を意識するようになったのは、飲食のバイトを通してですね。場の雰囲気を作っていく、空間をしっかりと掌握していくことのベースの部分は、飲食店バイトの経験がすごく参考になりました。

 

-そのような学生生活を経て、今のお仕事を選ばれた経緯を教えてください。

 

 私は学生時代に、自分のことを「イノベーターである」という認識は全くなかったんですけど、ただ「チャレンジャーである」という認識はしていました。

 高校が進学校だったんですが、センター試験という枠組みがどうしても嫌で、試験そのものを放棄する、という暴挙にでました。「僕は受験しない、センター試験を受けない」と言って“一人学生運動”を起こしたんです。進学校というのは順位が出されるところもあって、5点違うと30位とか上がったり下がったりする。それがさも天下を取ったようなリアクションが出てくるような序列が出来上がる訳です。この上がり下がりの順列に対して一喜一憂する感じにものすごく違和感がありました。で、ボイコットして、結果、先生が焦って指定校推薦を薦めてくるっていう(笑)。

 

 大学は、正直普通のというか、何の特徴もブランド力もない、そういう大学だったんですね。そこに行って分かったのは、やる気を出さずに簡単にドロップアウトしてしまう人や、そもそも最初から諦めている人もいっぱいいたのですよね。どうせ就活しても大した企業に就職できないとか、そもそも自力では就職することはできないからコネを使おうとして、教授に強烈にゴマを擦っているとか。そんな中で、ここからどうやって就職活動していったらいいのかなって本当に考えました。

 

 そのときは普通の迷える就活生だったので、どんな職業があるのか片っ端から職業を調べました。その中で、やっぱりコンサルタントに憧れて、コンサルティング業界に就職したいなって思うようになりました。当時少ない経験と頭で考えていたのは、とにかくビジネス事例と問題解決のアプローチの経験を早くたくさん積みたいと思ったんです。いろんなお客さま、各業種のキーマンとの接触でいろんな問題解決のパターンが得られるだろうと考えました。そう思ったときに、コンサルティング業界は魅力的だなと思いました。

 

f:id:tsukutsugu:20150212071934j:plain

 

-最近、直前までお勤めになっていた会社をご退社されたということですが、今後はどのような展開をされていくのでしょうか?

 

 “シリアルアントレプレナー”になる、とにかく複数事業を実際に立ち上げていくことに集中したいですね。私は2年間、デンマークの会社の日本支社の社長をしていました。といっても本社から見たらGMやMD(Management Director)という存在です。だから、イントレプレナー*1は理解できたけど、アントレプレナーについては自分自身で知見と経験が弱いと感じていました。

 

 若者がこれからチャレンジをしようとしたときに、イントレプレナーとしての側面でしか語れないのはちょっとかっこ悪い、というか頼りないなぁと思っておりまして。いくつかの事業を立ち上げて自ら何かをやっているっていう状況で若い皆さんと対峙をしたいんです。両方分かる、両方のアプローチが大事、でも君が生きたいのはどっち?という話ができるようにしておきたいな、と。そうすることで初めて「僕は起業したいんだ」という人間を前に、説得力を持ってリーディング、コーチング、メンタリングできます。このまま行くとたぶん自分の中で1年2年後には壁にぶつかるだと思ってしまったのですね。できるだけ早くその壁を越えたいなとも思っています。

 

-櫻井さんはこれまで様々なことに挑戦されていますが、新しいことを始めるときに不安や恐れはありませんか?

 

 もちろん恐れも不安もありますよ。でも、それを解消する方法も長年の中で身につけています。まずひとつは慣れ。不安に対する解消策は圧倒的に経験量だと思います。小さなことをどれだけ意識的にできるのかが大切です。小さなことは、意外とみんな意識せずにやっているから認知していません。だけど、日々全く何もチャレンジしてないかといえばチャレンジって意外にいっぱいしているはずなんですよね。1ヶ月でやったことを全てリストアップしてみるだけで、ずいぶん新しいことをやっているはずだ、ということに気づけるのです。だけど、それは意識をしてないからそもそもチャレンジとしてカウントされてないのですね。それを意識してカウントを積み重ねてゆくと、その中に、振り返ればこれって意外と大きなチャレンジだったかも?ということをやっている場合が出てきます。それをしっかりとベースの財産にして延長線上に引っ張っていくと、人から見たときに「それって結構なチャレンジですよね?」っていうことをなんとなくやってしまっている自分を見つけることが出来ます。だから、僕自身あまり今の自分が大きくチャレンジをしている感覚はないですね。自分の中ではむしろセイフティーネットの中にいると思っていますから。

 

 絶対上手く飛べないってわかっているのにそれでも敢えて飛ぶというのはあまりお勧めしないです。自分の中で確実に飛べる範囲というものがあって、その範囲を広げていく感じでしょうか。自分がリスクだと思う範囲を少なくしたり、やれる範囲を大きくしたりっていうことが意識的にできると、人から見ると「チャレンジャー」だといわれることを楽しんでやれるような状況になるかもしれないですね。それを無理にやるというよりは、日常の中で少し意識してみることが大事です。

 

 それと、私は常にやらないことに対するリスクを考えるようにしています。ジャンプをすると痛いかもしれない。でもこのタイミングで飛ばないことに対しても確実にリスクが存在するんですよね。「現状を維持するというのは最良の選択である」って言うのは迷信です。今のまま何もしないということが最大のリスクかもしれないですよね。どうせ痛いんだったらチャレンジして痛いほうが、チャレンジしなくて痛いよりいいなって思えるようになりました。それはそこに自分の意思が入るからです。そのような観点で言いますとチャレンジするかしないかの選択の中で、考えた上での現状維持は、自分の意思が入るから別に悪いことではないと思います。

 

 

≫ profile

櫻井亮(さくらい・りょう)

GOB Incubation Partners 株式会社 Co-founder兼発火マジシャン

日本ヒューレッド・パッカード経て、2007年よりNTTデータ経営研究所にてマネージャー兼デザイン・コンサルティングチームチームリーダーを務める。2009年、野村総合研究所との共同プロジェクトにおいて、両社トップ直下で行う特別チーム「ITと新社会デザインフォーラム」に深く関与。このプロジェクトを発端に、2011年8月に「日本を創り継ぐプロジェクト」を発足させ、現在もアドバイザーとして当該プロジェクトの推進役をおこなっている。2013年に北欧系ストラテジックデザインファームDesignitの日本オフィスを立ち上げ、日本法人代表取締役に就任。その後、GOB Incubation Partners 株式会社を創立し、Co-founder兼発火マジシャンとして新規ビジョン策定・情報戦略の企画コーディネート、ワークショップのファシリテーション、デザイン思考アプローチによるイノベーションワーク、学生起業家や社内起業家の育成などを手掛けている。

著作に、『ITプロフェッショナルは社会価値イノベーションを巻き起こせ』(プロジェクトにて執筆)、『RFPでシステム構築を成功に導く本― ITベンダーの賢い 選び方見切り方』(広川敬祐 編著,櫻井亮,服部克彦,松尾重義 著)などがある。

*1:イントレプレナーとは、社内起業家のこと。大企業の中で、新規事業とか投資案件とかを引っ張っていくような企業人のこと。一方、アントレプレナーは、企業家。大企業に属さず、一から、2、3人からスタートして、結果的には百人、千人といった社員を持つ大きい会社を作ったり、社会にインパクトを起こしたりするまでにスケールする。イントレプレナーとは違い、資金やネットワークが何もない状態から始まる。